自動車の任意保険において欠かせない補償のひとつとなる「対人賠償責任保険」。
なんとなく理解しているようでも、いざ補償内容を聞かれると正確に答えられない人も多いのではないでしょうか。
補償内容を理解していないと契約時、適切な保険金額を設定できない可能性が生じるため、それぞれどういった補償が受けられるのか知っておくことは大切です。
今回は、任意自動車保険に付帯する「対人賠償責任保険」の補償内容や設定すべき保険金額について詳しく解説します。
名称を聞くだけでは区別が難しい「人身傷害保険」との違いについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
対人賠償責任保険とは
対人賠償責任保険とは、事故の相手方に生じたケガや死亡・後遺障害による治療費や慰謝料といった「損害賠償金」を補償する保険です。いわゆる「人身傷害」に対する補償が受けられる保険にあたります。
便宜上、人身傷害に対する補償の名称は「対人賠償責任保険」と「人身傷害保険(補償)」の2つに分けられています。
いずれも人身傷害、すなわち「人」の「身」に生じた「傷害(ケガ)」に対する補償が受けられますが、その中でも「対人=相手の人」のケガに対する損害賠償金を補償してくれるのが対人賠償責任保険です。
相手方に対する人身傷害補償は、自賠責保険から優先して保険金が支払われます。
しかし自賠責保険で受け取れる補償は、ケガの場合で120万円、死亡の場合で3,000万円、重度の後遺障害の場合で4,000万円とそれぞれ限度額が決められているのが特徴です。
自賠責保険の上限を超えた分の損害賠償金をカバーする目的で加入するのが「対人賠償責任保険」です。
https://insurance.frm.media/car/post/car-insurance
対人賠償責任保険の補償内容
続いて、対人賠償責任保険の補償内容について詳しく見ていきましょう。
「保険金が支払われるケース」「誰に対する補償なのか」「補償の対象外となる人物は誰か」「補償がおりないケースはあるのか」の4つのポイントから解説します。
保険金が支払われるケース
対人賠償責任保険において保険金が支払われるケースは、以下の通りです。
- 事故の相手が死亡したとき
- 事故の相手が後遺障害を負ったとき
- 事故の相手がケガをしたとき
これらに付随する治療費や休業損害、逸失利益や葬儀費用などが支払われます。
なお自賠責保険の基準では、補償が受けられるのは「車の運転中に起きた事故のみ」となっています。
一方で任意保険の対人賠償責任は、運転中に限らず、車の「所有・使用・管理」上、なんらかの問題が生じて発生した人身事故において補償が受けられるのが特徴です。
誰に対する補償なのか?
対人賠償責任保険は、自分以外の他人に生じた傷害に対する損害賠償金を補償する保険です。基本的には、事故の相手方が補償の対象になると考えて問題ないでしょう。
また自分の車に家族以外の同乗者がいて、事故により負傷した場合は、その人に対しても対人賠償責任保険から優先的に保険金が支払われます。
補償対象外になる人物
対人賠償責任保険から保険金が受け取れない人物は、ざっくりと「家族関係にある人」と考えておいて良いでしょう。
具体的には以下の人物が挙げられます。
- 記名被保険者
- 契約の車を運転中の人またはその配偶者
- 契約の車を運転中の人の父母または子(同居中に限る)
- 被保険者の配偶者
- 被保険者の同居の父母または子
- 被保険者の業務に従事中の使用人
※記名被保険者・・・主に車を運転する人
※被保険者・・・保険の対象となる人
上記に挙げた人が、運転中の事故によってケガをしたとしても、対人賠償責任保険からは補償が受けられません。
代わりに自賠責保険や任意保険の人身傷害保険といった部分からの補償が受けられます。
補償がおりないケース
続いて、上記に挙げた「人」以外の理由で対人賠償責任の補償が受けられなくなるケースについても確認してみましょう。
- 契約者または被保険者の故意により発生した損害
- 台風、洪水、高潮といった水災害に起因する損害
- 地震、噴火またはこれらにより生じた津波に起因する損害
- 戦争、外国の武力行使、暴動、核燃料物質などに起因する損害
- レース・ラリーなどの競技または曲技に使用する目的で生じた損害(練習やそれらを行う場所で起きた損害も含む)
対人賠償責任保険の補償範囲は、運転中以外にも車の所用・使用・管理における損害について幅広く設定されているものの、基本的な自然災害によって生じた事故に関する補償は受けられません。
ただし、無免許運転や飲酒運転といった違反運転が原因で起きた事故については、補償が受けられるのがポイントです。
対人賠償責任保険の保険金額
「被害者の救済のため、最低限の補償を提供する」といった目的で強制加入となっている自賠責保険では、ケガ・死亡・後遺障害、それぞれのケースにおいて補償の上限額が決められています。しかし、事故の相手が被った損害がすべて数千万円で事足りるとは限りません。
過去の事例の中には高額な賠償請求も見受けられるため、万が一に備える意味でも保険金額は「無制限」で設定するのがおすすめです。
以下、実際に起きた交通事故による高額賠償請求の事例を記載したのでご覧ください。
認定損害額 | 態様 | 事故年月日 | 判決年月日 | 被害者の
年齢・性別 |
被害者の職業 |
5億2,853万円 | 死亡 | 2009.12.27 | 2011.11.1 | 41歳・男性 | 眼科開業医 |
4億5,375万円 | 後遺障害 | 2012.11.1 | 2017.7.18 | 50歳・男性 | コンサルタント |
4億3,961万円 | 後遺障害 | 2010.11.9 | 2016.12.6 | 58歳・女性 | 専門学校教諭 |
3億5,929万円 | 後遺障害 | 2010.7.22 | 2018.11.27 | 14歳・女性 | 中学生 |
参考:損害保険料率算出機構 2021年度自動車保険の概況「第42表 交通事故高額賠償判決例(人身事故)より
高額な損害賠償請求に当てはまる事故であっても真摯な対応ができるよう、十分な保険金額を設定しましょう。
対人賠償責任保険から支払われる項目
対人賠償責任保険からはどのような費用に関する補償がされているのでしょうか。
相手方に支払われる項目には、以下のような種類が挙げられます。
ケガの場合 | 後遺障害の場合 | 死亡の場合 |
治療費 | 治療費 | 治療費 |
休業損害
(仕事を休んだ場合) |
逸失利益 | 葬儀費 |
通院交通費 | 通院交通費 | 逸失利益 |
慰謝料(精神的損害) | 慰謝料(精神的損害) | 慰謝料(被害者本人および遺族) |
補償されるのは治療費など実際にかかった費用だけではありません。
仕事を休んだことによる「休業損害」や「精神的損害」など、目に見えない費用に関しても「損害賠償金」として算出され、相手方に支払われます。
対人賠償責任保険が適用となる事故の例
対人賠償責任保険の補償内容について、ご理解いただけたでしょうか。
より理解を深めていくため、ここでは対人賠償責任保険が適用となる事故の例を見てみましょう。
【例1.運転操作を誤って対向車と衝突し、相手にケガを負わせた】
自分の車:同乗者なし、自分自身も負傷
相手の車:同乗者1名(ケガ人は計2名)
この場合、相手方のケガに対する損害賠償は「対人賠償責任保険」から補償されます。
自分のケガに対する補償は「人身傷害保険」から保険金が受け取れる仕組みです。
【例2.運転中、誤ってガードレールに衝突。近くにいた歩行者が事故の衝撃から転倒し、負傷した(同乗者である友人も負傷)】
自分の車:友人1名が同乗(軽傷)
相手:歩行者1名がケガ
この場合対向車はいませんが、歩行者を負傷させてしまったので、歩行者に対して「対人賠償責任保険」から損害賠償金が支払われます。
そして自分の車に同乗していたのが友人なので、この友人に対しても「対人賠償責任保険」から治療費などの損害賠償が補償されます。
なおこの友人は、対人賠償責任保険以外に人身傷害保険からも補償を受けることができます。
対人賠償責任保険と人身傷害保険の違いは?
任意の自動車保険には、人に対する補償として「対人賠償責任保険」と「人身傷害保険」の2種類があることを冒頭で解説しました。
どちらも「人」のケガや死亡・後遺障害に対する補償ですが、両者の決定的な違いは「補償の対象となる人」です。
- 対人賠償責任保険・・・事故の相手方に対する補償(同乗者も家族以外の他人であれば対象)
- 人身傷害保険・・・自分を含む同乗者(家族も他人も対象)
また、対人賠償責任保険には過失割合により補償が減額されるケースもありますが、人身傷害保険には過失相殺が発生しないといった違いもあります。
https://insurance.frm.media/car/post/jinshinshogai
示談交渉サービスとは?
任意の自動車保険には、多くの場合「示談交渉サービス」が自動で付いてきます。
示談とは調停や裁判といった形ではなく、当事者間の話し合いによって事故を解決する方法です。自動車事故においては過失割合や損害賠償の金額などを交渉することになるでしょう。
任意保険に付帯する「示談交渉サービス」を使えば、保険会社が示談にて事故の解決ができるよう、相手方(もしくは相手方の保険会社)と交渉を進めてくれます。
まとめ:対人賠償責任保険は「無制限」で加入しよう
対人賠償責任保険は、事故の相手方の身体に生じた損害に対する損害賠償金を補償する保険です。
事故の度合いによっては高額賠償に当てはまる可能性も十分に考えられます。
対人賠償責任保険の保険金額を少なくすると補償が足りずに「損害賠償金が支払えない」といった事態にもなりかねません。
万が一に備えて、対人賠償責任保険は「無制限」で設定するのがおすすめです。
補償内容をしっかりと理解して、適切な保険金額を備えた保険に加入しましょう。