「子供が自転車事故を起こして相手にケガさせるとどうなるの?」
「自分の家族が自転車事故に遭ったらどうしよう」
日常的に自転車に乗る方は、事故について不安を抱いたこともあるのではないでしょうか。自転車関連の事故には、被害者・加害者ともに大きな損害を負うリスクがあります。しかし、日頃から交通ルールを守ったり自転車の定期点検を行ったりしていても、事故の可能性をゼロにはできません。
「備えあれば憂いなし」という言葉のように、万が一事故に巻き込まれた場合を想定した備えが必要です。そこで今回は、自転車事故で生じた高額賠償の事例を紹介した上で、損害賠償が高額になる理由や自分と家族を守るために必要な準備などを解説します。
全交通事故における自転車関連事故の比率は高い
自転車関連の事故件数は年々減少の傾向にありますが、全交通事故における自転車関連の事故の割合は平成28年以降増加し続けています。さらに、令和3年に起きた自転車関連の事故件数には、10年ぶりの増加がありました。
また自転車関連の事故件数は減少傾向にあるにもかかわらず、自転車対歩行者の事故数は少しずつ増加している状態です。中でも歩行者側に死亡・重度のケガがあったケースでは、「15歳〜19歳」の加害者が群を抜いて多い傾向にあります。ちょうど高校生にあたるこの年齢層は、自転車の走行範囲が広まり塾やクラブ活動などで夜間に運転する機会も増え始める年頃です。
以上の状況から、自転車関連の事故率が増加している背景には自転車に乗る人の安全意識や交通ルールへの知識が定着していない問題が垣間見えます。
【ケース1】9,500万円という高額賠償事例
小学5年生の男子が夜間自転車で坂を下り、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)に正面衝突。
被害者の女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、その後意識が戻らないまま寝たきり状態となりました。
損害賠償額は9,521万円で、加害者の男子の母親に賠償が命じられた。(平成25年神戸地裁)
【ケース2】携帯操作の女子高生と歩行者の衝突
16歳の女子高生が、夜間に無灯火で携帯を操作しながらの片手運転を行い、前を歩いていた女性(57歳)に衝突した事故。
被害者は歩行が困難になる後遺症が残りました。損害賠償額は5,000万円。
(平成17年横浜地裁)
【ケース3】歩行者が死亡した事故事例
男子中学生(15歳)が無灯火・高速度で歩道を自転車を運転し、対抗から来た62歳男性と衝突。
男性は転倒し、頭を強打し死亡した事例です。損害賠償額は3,970万円。
(平成19年大阪地裁)
【ケース4】無灯火運転の中学生と高齢者の衝突
75歳の高齢者女性が、対向方向から無灯火で自転車を運転していた男子中学生(14歳)と衝突した事故。被害者女性は脳に後遺症を負いました。
損害賠償額は3,120万円。
(平成14年名古屋地裁)
【ケース5】信号待ちの歩行者と自転車の衝突
歩行者(69歳女性)と自転車に乗った少年(17歳男性)が衝突した事故。
被害者の女性は大けがを負うことになり、損害賠償額は1,800万となりました。
(平成10年大阪地裁)
【ケース6】車道を斜め横断の自転車が対向車線走行の自転車に衝突
男子高校生が自転車横断帯に入るかなり手前から車道に侵入し斜め横断したところ、対向車線を走る自転車と衝突。男性会社員(24歳)は言語機能の喪失という重大な障害を負うことになり、損害賠償額は9,266万円となりました。
(平成20年東京地裁)
自転車事故の損害賠償が高額になるのはなぜ?
自転車事故の損害賠償額が高額になる理由には、被害者・加害者間にある「過失割合」と事故との間に「相当因果関係」のある損害の度合いが関係しています。以下に挙げる条件に該当する場合、損害賠償額が高額になりかねません。
加害者側に交通違反がある
加害者側に交通違反がある場合、損害賠償額が高額になる傾向にあります。そもそも、損害賠償額は被害者・加害者間での示談によって、事故の過失割合をもとに決まるものです。例えば、通常過失の大きい方が事故の加害者、小さい方が被害者となりますが、被害者側にも過失が認められると「過失相殺」という形で加害者の支払う損害賠償額が軽減されます。
自転車関連の事故の場合、安全確認の怠りや信号無視、夜間の無灯火走行などの交通違反は明らかな過失とみなされ、損害賠償額は高額になります。
被害者側の損害が大きい
事故と相当因果関係のある損害が大きいほど、損害賠償額は高額になります。自転車対歩行者の事故の場合、自転車の速度や重量、事故の状態によって歩行者の負うダメージは重度になりがちです。被害者に長期的な治療や介護が必要な障害を与えてしまったり死亡させてしまったりするケースもあります。
損害賠償の対象となる主な項目は下記です。
- 治療費
- 通院費
- 介護費用
- 休業によって得るはずだった収入額
- 精神的な被害への慰謝料
過失割合が高くても生じた損害が小さければ加害者の負う責任も少なく済みますが、相手へのダメージが大きいほど損害賠償額は跳ね上がりかねません。
加害者が賠償金を支払えない場合、どうなるの?
損害が大きい場合、経済的な事情などで加害者が損害賠償金を支払えない可能性があります。万が一事故が起きた際に十分な補償を得られるよう、下記の対策を知っておきましょう。
被害者の加入している保険を使う
万が一加害者が損害賠償金を支払えない場合、被害者やその家族が加入している保険が使えるかどうかを確認しましょう。事故時に使える保険には自転車保険や個人賠償責任保険、障害保険などがあります。保険の種類によって補償の対象が異なるため、具体的に理解しておくことが必要です。
日常的に自転車を利用される方は、自分のケガや相手のケガ、物損にも使える自転車保険への加入がおすすめです。
自転車に付いているTSマーク付帯の保険を使う
TSマークは自転車安全整備士による有料の点検が完了すると自転車に付加される保険です。保険の有効期間は、点検後に貼られたTSマークシールにある点検基準日から1年間となります。
TSマークには赤色・青色・緑色の3種類あり、それぞれの補償内容は下記です。
赤色青色マークは損害賠償の補償対象が死亡または重度の後遺症が残った場合に限られますが、令和4年12月から運用が始まった緑色マークでは後遺症の有無に限らず全ての人身事故が補償の対象となります。
TSマーク付帯保険にある補償の特徴は、自身のケガへの補償が一律である点です。事故の損害が大きいほど、補償が十分に受けられずデメリットは大きくなります。
勤務中の自転車事故であれば労災保険を使う
勤務中や通勤中に起きた自転車事故であれば、自身が負ったケガが通勤災害として認められるため、労災保険が使えます。労災保険で受けられる給付は下記です。
- 療養給付
- 休業給付
- 障害給付
- 遺族給付
- 葬祭給付
- 傷病年金
- 介護給付
労災保険を使うメリットは、労働者の過失が重大である場合を除いて原則治療にかかる費用が全額支給される点です。自転車通勤などで起きた事故の補償には、過失の有無に関係なく補償が受けられる労災保険が適しているでしょう。
自転車保険に加入しよう
自転車関連の事故への備えには自転車保険の加入をおすすめします。自転車関連の事故では被害者・加害者ともに大ケガや死亡のリスクを負いかねません。特に10代の若者が対歩行者の事故を起こす確率は高く、損害賠償の責任は親に問われるケースがほとんどです。
保険への加入は、万が一の際に自分と家族を守るために役立ちます。特に自転車保険の補償は自分のケガにも相手のケガにも使えるので、「大きな損害を受けたのに補償が得られなかった」という心配がなくおすすめです。多くの自転車保険は家族も補償の対象になるので、重複のないように自分に合う商品を選びましょう。