神奈川県は、自転車保険の義務化を柱とした条例の制定を行う方針を明らかにしました。事業者や関係団体などにも意見を求めつつ、年度内の施行を目指しているようです。
重大な自転車事故の増加などを背景に、自治体による自動車保険義務化の促進は今後ますます進められると考えられます。今回は、神奈川県の自転車保険義務化の背景や、自治体による義務化の傾向などについて解説します。
自転車保険加入が義務化に向かう背景
今回、神奈川県で義務化の対象となるのは「自転車損害賠償保険」の加入です。これは自転車利用中の交通事故で、相手を死亡させてしまったり、怪我を負わせてしまった際の損害を補償してくれる保険です。
この保険が義務化される背景としては、2点挙げられます。
- 自転車事故件数の増加が見られた
- 自転車事故による多額の賠償請求が発生する事案がある
交通事故全体の増加割合に対して、自転車事故の増加割合の方が圧倒的に高かったそうです。
平成29年の1年間に起きた交通事故発生件数は2万8540件と前年比5・3%増。増加に転じたのは17年ぶり。中でも自転車が関係する事故は同11・2%増の6546件となった。
また、損害賠償額については数千万円に上ることも珍しくなく、1億円ほど請求される事例もあります。
損害賠償額 9,521万円(神戸地方裁判所、2013年7月4日判決)
男児(11才)が夜間に自転車で走行中、歩行中の女性(62才)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の障害を負い、意識が戻らない状態となった。
損害賠償額 9,266万円(東京地方裁判所、2008年6月5日判決)
男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。
自治体による自転車保険義務化は促進と啓蒙が必要
自転車損害賠償保険加入を義務付けた条例を制定している都道府県は6府県あり、神奈川県で義務化が定められれば全国で7番目の制定ということになります。
神奈川県同様、制定される背景には自転車事故やそれに伴う多額の賠償請求事例の増加が挙げられます。条例の内容も全ての自治体で自転車損害賠償保険の加入を義務付けたものになっています。
【自治体による自転車保険加入義務の現状】
「義務」
埼玉県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、鹿児島県
計6自治体(名古屋市を含める場合、計7自治体)
「努力義務」
東京都、千葉県、群馬県、鳥取県、香川県、徳島県、愛媛県、福岡県、熊本県
計9自治体
全国16自治体
2018年4月現在
各地域で義務化を進めていると言っても、総数は依然少ない状況です。また、義務化されていても「罰則」が設けられていないことなどから、全ての自転車利用者が加入しているという訳ではありません。
まずは、個々人の安全意識を高め、自身の属する自治体の条例を確認することから行いましょう。
各自治体の条例制定が加入義務化の流れを後押し
保険加入の義務化は今後も積極的な促進が必要だとされています。そんな中、神奈川県相模原市では、2017年12月に県内初となる自転車保険義務化を含む条例をすでに制定しています。市町村での自転車保険義務化は名古屋市についで全国で2番目です。
相模原市で制定された背景としては、下記のような理由が挙げられています。
- 市内は自転車に適した平坦な道が多く今後も自転車利用者が増加すると見られている。
- 交通事故全体における自転車事故の割合が、相模原市内は30.4%となっており、県内平均が21.7%であるのに比べ、非常に高い状況となっている。
- 自転車事故による多額の賠償請求が発生する事案がある。
また、条例では保険加入の義務化だけでなく、交通安全教育の実施や自転車の点検整備、ヘルメット着用を義務付けており、市民には交通安全への意識を高めることが求められています。
相模原市のような前例が少ない中での条例制定は、他の行政の自動車保険加入義務化を後押しすることになります。相模原市だけでなく神奈川県でも条例が制定されれば、さらに他の行政での保険加入義務化を促進することになるでしょう。
さいごに
保険加入は万が一の時の備えです。交通ルールを守り、安全意識を高く持ち、事故を回避することが第一になります。自転車保険加入の義務化を機会に、交通安全について今一度考えてみましょう。