「最近、交差点で警察官をよく見かけるな」
このように感じ始めている方も多いのではないでしょうか。
2022年10月末、警視庁は自転車走行者への取り締まりを強化しました。
今まで見逃されてきた自転車の交通違反が取り締まりの対象となる新体制に対し、「自分の運転は大丈夫かな」と不安になってしまう方がいても無理はありません。
しかし自転車の危険行為の種類や正しい走行、事故への対策を知っていれば、警察から取り締まられないように注意して走行できるはずです。
そこで、今回は自転車の交通違反にある取り締まり方法や、取り締まり対象となる行為と罰則、そして交通違反が引き金となる事故への備え・対策などを解説します。
自転車の交通違反にある取り締まりとは
自転車の交通違反を取り締まる方法には「自転車指導警告カード」と「赤切符(違反切符)」の交付があります。
自転車指導警告カードはあくまで違反への注意を促すためのもので、交付されても罰則が生じることはありません。一方で、赤切符は罰則の対象となる違反行為に対して交付されるもので、違反状況によっては裁判所・検察庁への出頭や罰金の支払いが必要となります。
自転車のルールを明確に理解せず歩行者と同じ感覚で走行していると、知らないうちに交通違反を犯し、前科がついてしまうこともあるのです。
増え続ける自転車の「赤切符」と取り締まりの強化
自転車の利用者が犯す交通違反は年々増加傾向にあります。
実際、警視庁が都内で交付した赤切符の数は2019年時点では2,000件程度でしたが、翌年には約3000件に増大し、2年後の2021年には約4300件と倍以上になっているのが現状です。さらに、2022年9月末時点での赤切符交付数はすでに3,900枚を超え、前年同月よりも669枚増えていることがわかりました。
本来、軽車両に分類される自転車を歩行者感覚で走らせる人が多い問題に対し、警視庁が2022年10月末より決行したのが自転車の交通違反への取り締まり強化です。新しい体制下では、下記の項目に対し積極的に赤切符が切られます。
- 信号無視
- 一時不停止
- 右側通行
- 徐行せずに歩道通行
これらの違反は今まで警告を受けるに留まるものでしたが、状況が悪質であると判断された場合、赤切符が交付されます。
例えば、下記に挙げる項目は悪質と判断され、赤切符の交付対象となるものです。
- 警察官から違反時に呼び止められても逃げようとする場合
- 警告されたにもかかわらず、警察官に逆らう態度をとる場合
- 警察官から事情を聴取されても答えない場合
- 違反行為への注意を受けたにもかかわらず、無視して繰り返す場合
- 第三者の目からみて明らかに危険だとわかる行為をした場合
たとえ軽度の違反行為であっても、違反に対する反省がなく同じ行為を繰り返してしまうなら赤切符を切られてしまうこともあるのです。
自転車への取り締まりが強化された理由とは
自転車の交通違反への取り締まりが強化された理由は、単なる赤切符交付数の増加だけではありません。重視すべき問題は、自転車関連の事故が他の交通事故に比べて顕著である点です。
警視庁の調べでは、自転車関連事故件数の全交通事故に占める割合が平成28年以降増え続けていることがわかります。
また同庁の調べによれば、自動車相手の事故の場合、自転車の利用者が重症や死亡に至る割合が約8割と高く、その半数以上には自転車側の交通違反があることもわかりました。
コロナ禍で感染予防の必要性が高まる中、自転車での移動は密を避ける上で有用です。実際、通勤に自転車を利用したり、ウーバーイーツを活用したりする人が増えており、2020年度の自転車販売市場は過去最高の2,100億円超えとなりました。
しかし自転車の利用者に交通ルールの知識が欠けたままであるが故、交通違反を犯してしまう人が後を絶ちません。自転車の交通違反への取り締まり強化には、自転車の需要が高まり続ける一方で、利用者への交通知識の浸透が遅れている背景があるのです。
参考:PR TIMES|コロナ禍の「自転車ブーム」追い風 20年度の自転車販売市場は2100億円超、過去最高を更新
自転車走行者が警察に止められた実例
自転車走行中に、警察から呼び止められた人の実例を2つご紹介します。
車道の信号を無視&歩行者の通行妨げ
スーパーで家族7人3日分の買い物を終え、自転車で帰宅途中だった女性の事例です。
歩道の信号が青になったのを確認し、走り始めたところで警察に呼び止められ、
「運転手さん、今信号、赤でしたよね?」
と言われたとのことでした。
女性は歩道側の信号を守って走行していたのですが、その時に女性が走行していたのは車道であったため、「車道の信号を無視」することになってしまったようです。
加えて横断歩道を歩いている人の進行を妨げてしまったことも指摘され、女性は赤切符を渡されます。
子供2人載せた自転車が踏切を強行突破
自転車の前と後ろにそれぞれ子供を乗せた状態で、警報音の鳴った踏切を渡った女性の事例です。
警報音の鳴った踏切の中に入ることは道路交通法第33条で禁止されています。
踏切を渡った女性は警察に止められ、指導を受けた後に「自転車指導警告カード」を渡されたとのことです。自転車指導警告カードとは、自転車の危険運転の実例について書かれた緑色の紙を指します。
参考:Yahoo! JAPANニュース|「時間ないってば!うるさいな」警察に逆ギレする女性…踏切を自転車で強行突破 危険走行に“赤切符”続出
参考:警視庁|道路交通法
自転車に関する違反への罰則とは
自転車で交通違反を犯してしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか。
下記では赤切符を切られた際に科せられる罰則のうち、具体的な内容を確認していきましょう。
自転車運転者講習の受講
一度目に赤切符を交付されてから3年以内に、再度赤切符を切られた場合、公安委員会より「自転車運転講習」の受講命令を受けます。
自転車運転講習とは、自転車の運転による危険行為を防止するために実施されるものです。受講時間は3時間で、手数料は6,000円。
講習は命令書が交付されてから3ヶ月以内に受講しなければならず、従わなかった場合には5万円以下の罰金が科せられます。
罰金・懲役
自転車の交通違反への罰則は、道路交通法で規定される危険行為の種類によって異なります。下記では主な危険行為に課せられる罰則の内容を紹介しましょう。
危険行為 | 罰金・懲役 | 道路交通法の根拠規定 |
酒気帯び運転 | 5年以下の懲役、又は100万円以下の罰金 | 何人も酒気を帯びて運転してはならない。(第65条第1項) |
信号の無視 | 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金 | 信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等に従わなければならない。(第7条) |
指定場所における一時不停止 | 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金 | 道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、停止線の直前で一時停止しなければならない。(第43条) |
夜間のライト不点灯 | 5万円以下の罰金 | 夜間、道路を通行するときは、灯火をつけなければならない。(第52条) |
二人乗り | 2万円以下の罰金、又は科料 | 都道府県公安委員会が定める乗車制限に反して乗車させ、自転車を運転してはならない。(第57条第2項) |
通行禁止区域の通行 | 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金 | 道路標識等によりその通行を禁止されている道路又はその部分を通行してはならない。(第8条) |
歩道や路側帯の通行 | 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金 | 歩車道の区別のある道路では、車道を通行しなければならない。(第17条第1項) |
右側通行 | 3ヶ月以下の懲役、又は5万円以下の罰金 | 道路の中央から左の部分を通行しなければならない。(第17条第4項) |
車両の並進 | 2万円以下の罰金、又は科料 | 自転車など軽車両は、他の軽車両と並進してはならない。(第19条) |
歩道の疾行や歩行者の通行妨害 | 2万円以下の罰金、又は科料 | 道路標識等により通行することができる歩道を通行するときなどは、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければならない。(第63条の4第2項) |
自転車横断帯の通行違反 | 2万円以下の罰金、又は科料 | 交差点又はその付近に自転車横断帯があるときは、その自転車横断帯を進行しなければならない。(第63条の7第1項) |
これらの危険行為の中には、普段の走行で何気なく犯してしまっているものもあるのではないでしょうか。事故へのリスクを最小限にするためにも、しっかりと交通ルールの知識を身につけ危険行為を回避しましょう。
高額な損害賠償が生じた違反の実例
自転車の交通違反が招く事故には高額な損害賠償が発生するケースもあります。下記に挙げる事例から、実際に起こった自転車関連の死亡・重症事故にどれほどの損害賠償が生じたのか見ていきましょう。
道路交通法第25条・63条「自転車の横断の方法」の違反
男子高校生が日中、自転車横断帯の手前(歩道)から車道を斜め横断した際、対向車線を走行してきた自転車と衝突。被害者の会社員男性(24歳)には言語機能における重大な障害が残り、9,266万円の損害賠償金が発生した。 |
道路交通法第70条・71条「片手運転の禁止」の違反
ペットボトルを片手に下り坂を疾行しながら交差点に侵入した男性が、横断歩道を通行中の女性(38歳)と衝突。女性が脳挫傷により3日後死亡し、男性は6,779万円の損害賠償金を負うことになった。 |
道路交通法第52条「夜間、無灯火運転の禁止」の違反
女子高生が夜間ライトを灯火せず、携帯電話を使用しながら運転していた際、前方の看護師女性(57歳)と衝突。女性には手足の痺れや歩行困難などの重大な障害が残り、女子高生は5,000万円の損害賠償を負うことになった。 |
自転車関連事故には数千万円の損害賠償が発生するリスクがあり、場合によっては自己破産せざるを得ないこともあります。たった一度の交通違反が加害者や被害者、それぞれの家族の人生を大きく変えてしまいかねないことを心に留めておきましょう。
事故を避けるためにできることとは
自転車を利用する可能性がある人は皆、事故を避けるために自分でできる対策を習慣化する必要があります。下記では安全な走行に役立つ心がけを紹介しましょう。
自転車安全利用五則を守る
安全な自転車走行のためのルールとして、令和4年11月に「自転車安全利用五則」が制定されました。自転車安全利用五則の具体的な内容は下記です。
- 車道が原則、左側を通行 歩道は例外、歩行者を優先
- 交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
- 夜間はライトを点灯
- 飲酒運転は禁止
- ヘルメットを着用
自転車事故に巻き込まれたり加害者になったりしないために、日頃から自転車の原則を意識しながら走行しましょう。
ながら運転をしない
スマートフォンや傘、荷物などを手にして行う片手運転は、道路交通法上禁止されている行為です。またイヤホンなどを使用しながら行う「ながら運転」は両手がしっかりハンドルにあっても、周囲の状況から注意が逸れるため事故につながりやすくなります。
自転車を利用する際は、運転だけに意識を集中できるように細心の注意を払いましょう。どうしても運転以外の作業をせざるを得ない場合は、一旦自転車を停止させてから行うことが大切です。
定期的に点検する
自転車に乗る前には、必ず自転車各部位の点検を行いましょう。おすすめの点検方法は「ぶたはしゃべる」の語呂に合わせてチェックを行うことです。
ぶ(ブレーキ) | ・前後ブレーキがしっかりきくかどうか |
た(タイヤ) | ・タイヤの空気が入っているか・タイヤに劣化や傷がないかどうか |
は(ハンドル) | ハンドルと車体の角度が曲がっていないかどうか |
しゃ(車体) | ・サドルが適切な位置かどうか・ライトが点灯するかどうか・反射器に汚れや破損がないかどうか |
べる(ベル) | ・音がなるかどうか |
語呂合わせを使うと各チェック項目を覚えやすく、チェックのし忘れも防げます。子供と一緒に自転車点検を行ったり、子供が自分の自転車を管理したりする上でもおすすめです。
万が一の備えに自転車保険の加入は重要
自転車の交通違反への取り締まりは強化されても、自らが事故の加害者になってしまうリスクをゼロにすることは不可能です。相手に重大な負傷を負わせてしまった場合、懲役や罰金だけでなく高額な損害賠償を負うことになってしまいます。
自転車を利用する方は万が一の事態に備え、自分と家族を守るために自転車保険に加入しておきましょう。自転車関連の事故には数千万円の損害賠償が求められるケースがあることを考慮すると、1億円以上の補償がある自転車保険がおすすめです。
損害賠償保険は家族が起こした事故も補償の対象になる商品が多いので、ご自身の家族が加入している保険と重複がないことを確認した上で、ライフスタイルに合う自転車保険を選びましょう。